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【 コラム 】

無戸籍児童は修学旅行に行くことができたのか [ 3 ]

DATE:2015年11月7日

家庭裁判所は、就籍許可の手続きというのは、いわゆる棄児や記憶喪失の身元不明者という場合に例外的に取られる手続きであって、母親や生まれた病院も分かっているS君のようなケースには予定をしていない、という姿勢を崩そうとしなかった。
こちらも、就籍許可の手続きが、過去にそういうケースしか裁判例がないということは、百も承知だ。
でも、そんなことは法律のどこにも書いていないでしょとか、
過去がどうこうではなく、今この事件をどうするかでしょとか、
S君のことで学校全体の修学旅行先が変わってしまって、それでいいと思っているのとか、
学校の先生だって親や生徒に行き先を変える理由を説明するのに困るでしょとか、
Y氏のいる中国地方の裁判所に行く費用がS君にはないのに、どうするのとか、
ありとあらゆることを、実際にはもう少し丁寧に裁判官に言ってみたが、駄目だった。
Y氏のいる中国地方の家庭裁判所に、Y氏を相手方として親子関係不存在の調停を申し立てる方法しかないということだった。

ご存じのとおり、法律扶助協会の事件の場合、旅費支給という概念はなく(これは、今の法テラスも同じ)、実際にかかった旅費費用が扶助協会から渡された金額を超えていくと、依頼者からその都度実費を補填してもらえない限り、弁護士は自腹を切っていくしかない。
当時すでに、子どもに関する別の事件で遠方の裁判所に通っていて、かなりの額の旅費が自腹になっていたので、また一件自腹事件が増えるのかと、少々憂鬱な気持ちもあった。
しかし、それ以上に、こちらが申し立てた調停にY氏が協力してくれなかったら、その後の手続きがどうなっていくのかもわからなかったし、はたして学校が修学旅行先を決めなければならない時期までに、S君の戸籍を作れてS君がパスポートを取得することができるのか、見通しも、勝算も、まったく持てなかった。

このような八方ふさがりのなかで、辛うじて、相手方の同意を取り付ければ調停の管轄を京都にできるという方法を思いつき、おそるおそるY氏に、これまでのいきさつと、何とか手続きに協力してもらえないかという内容の手紙を書いて、Y氏の自宅住所に手紙を郵送した。
S君が今京都の施設で暮らしていることは、手紙の中でふれざるを得なかったが、S君のお母さんに累が及ばないよう、S君のお母さんが今、行方知らずになっていて連絡が取れないでいるということも(これは事実そうだった)、手紙のなかに記しておいた。

数日がたって、差出人がY氏となっている封書が事務所に届いた。