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【 コラム 】

無戸籍児童は修学旅行に行くことができたのか [ 1 ]

DATE:2015年11月5日

今年(2015年)の6月、法務省は、出生届が出されず戸籍がないまま暮らしている「無戸籍」の人を全国で626人確認したと発表し、多くのマスメディアが記事やニュースのなかで、この発表を取り上げました。
法務省は「無戸籍」の解消に向けて各施策を強化するとしており、今月11日には、日本弁護士連合会主催、法務省後援で「全国一斉無戸籍ホットライン」という電話相談が、全国の弁護士会で実施されることになっています。

法務省が発表した、全国で626人という数字には多くの暗数が含まれていて,推計で1万人を超えているという指摘も行われており、私自身も、この推計値の方が、より実態に即していると感じています。
というのも、私は弁護士として、今から15年ほど前に、無戸籍児の相談を受けたことがきっかけとなって奔走したことがあり、今から5年ほど前にも、別の相談をきっかけに無戸籍児の事件を手がけたことがあるからです。京都の地で普通に弁護士をしている私が、10年の間に2件も無戸籍児の問題に関わっているわけですから、法務省発表の人数が、いかに実態に合っていないか、推して知るべしではないかと思っています。

私が関わった最初の無戸籍児の事件については、4年ほど前に京都弁護士会の会報(非売品)に体験談を寄稿する機会があったのですが、「無戸籍」の問題がなぜ生じるのか、そして、その解決のためには何が必要なのかを考えていくうえで一助とするために、当時の原稿にあまり手を加えずに(会報は会員弁護士を主な読者層としているので、読みにくいところがあるかもしれませんが)、これから数回に分けてエッセイとして紹介したいと思います。なお、古い事件とはいえ、実際に私が担当した事件となりますので、関係者の氏名にはイニシャルを用いたり、住まいなども適宜手を加えていることをご容赦ください。

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私が会員登録をした15年位前(注:会報に掲載されたときを起点)というのは、当会(注:京都弁護士会)における付添人扶助の年間件数が、ようやく二桁台に乗り始めたところで、少年事件、とりわけ扶助制度を利用した少年事件は、新入会員や物好きな会員が行うといった感が、当時はどこか否めなかった。
それは、そうだ。
少年事件の場合は、4週間(法律の規定によると、2週間が原則なはずだが)で、何もかもやって結果を出さなければならないからだ。勢い、登録間もない会員に事件依頼が当時集中していたのも、一面やむを得ないところがあった。私の場合が、まさにそうだ。
弁護士会事務局から、「少年事件が入りましたが、お願いできますか。」という連絡が来ると、まさか断ることができるなど当時は思いもよらず、週一以上の地方出張があるなかで、弁護士会から依頼されるまま引き受けていくと、いつの間にか少年事件の受任件数が増えていた、そういう感じだった。
少年事件を何件も引き受けていくと、少年の犯した非行というのは、あくまで結果にすぎず、その前にいろいろな要素があることに、否応なく気づかされていく。当時、付添人マニュアルなどは、ほとんど刊行されていなかったが、その代わり手探りの皮膚感覚で、それが少しずつ分かっていった。
学校の問題しかり、夫婦や親子など家庭の問題しかりだ。
その結果、多くの少年事件に関わっていくなかで、児童相談所や児童福祉施設など、子どもに関する様々な関係機関に、関わりを持つようになっていった。

ある日、そうやって知り合った児童養護施設の職員から、一度相談に乗ってほしいという連絡があった。今から10年位前(注:会報に掲載されたときを起点)のことだ。
施設職員からの相談内容というのは、このようなものだった。
施設に入所している中学生(仮にS君とする)が、戸籍を作られていないまま今日まで来てしまっていた。戸籍がなくても、それまで何の問題もなかったが、S君が通っている中学校では、毎年修学旅行で韓国に行くことになっている。韓国に行くには当然パスポートが要る。でも、S君は戸籍がないから、パスポートも作れないのではないか、修学旅行の行き先を決める時期が迫っているので、S君の学年から、修学旅行の行き先を国内に変えなければいけないのか。
そういう相談が、S君が通っている中学校から、施設に最近あったということだった。

その相談時に、施設職員から聞き出した話は、こうだ。