大阪06-4963-3973
京都075-257-3355
【受付時間】9:00〜17:00 お気軽にお電話ください

【 コラム 】

無戸籍児童は修学旅行に行くことができたのか [ 2 ]

DATE:2015年11月6日

S君のお母さんは、家庭内で激しい暴力をふるい続ける夫(Y氏とする)に耐えきれず、Y氏に行き先を告げずに、ある日突然、着の身着のままで中国地方から京都に逃げてきた。そして、その後京都で知り合った別の男性との間で子どもを身ごもり、京都の病院で男児を出産した。
それがS君だった。
S君のお母さんは、Y氏のもとから逃げ出すのが精一杯で、Y氏とは離婚が正式にできていなかった。 産後間もないS君のお母さんが出生届を出しに行った役所職員の説明によると、もしS君の出生届を出してしまうと、自分が京都に逃げてきて京都で出産したことが、Y氏にわかってしまう。Y氏は、S君のお母さんが逃げてきた当時は暴力団の幹部組員で、もし京都にいるということがわかってしまうと、どのような手だてを講じるかわからず、たちまち居場所がばれて、連れ戻されてしまう。
それで、S君のお母さんは、出生届が出せないままになってしまった。
自分やS君が京都にいるということは、絶対にY氏には知られたくないというのが、S君のお母さんの、たっての希望ということだった。

当時は「無戸籍児問題」という言葉も、まだ一般に浸透しておらず、施設職員からの相談内容を聞きながら、弁護士として何ができるのか、実はよくわかっていなかった。
S君はもちろんのこと、S君と同学年の生徒らが楽しみにしている修学旅行だろうから、その行き先が、ある年から突然理由も告げられないまま変わることだけは、何としても回避してあげないとダメだよな、その程度の認識だった。
施設職員には、何とか考えてみるとだけ答えて、その日の相談を終えた。

ところが、それからいろいろ文献を調べてみると、これが意外に難しいということが、遅まきながらわかってきた。
職員との相談中にも民法772条の問題であること位はわかっていたが、戸籍が作られていない場合に、どういう手続きで戸籍を作っていくのかが、当時はまったくわかっていなかった。
わかっていない者の強みというか、自分なりに出した結論というのが、就籍許可の審判を家庭裁判所に求めて、Y氏の関与のないところで、S君一人の戸籍を作ってしまおうというものだった。
施設職員の話では、最近S君のお母さんと連絡が取れないでいるということだったので、施設長を法定代理人として、S君本人を申立人として、法律扶助の手続きを利用して、家庭裁判所に審判申立てをする方法をとった。

これでS君の戸籍が作られれば話は早いのだが、世の中、そんなに甘くはない。